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2005年12月5日(月) ワイマールくん
友人2人と私との3人で事務所をシェアしていたのだが、1人は仕事を変わる事になり、1人は結婚することになり、出て行くことになった。
建物は上に行くほど広くなる台形のモダンな4階建てで、1階は密閉された駐車場、エントランスは2階部分にあり、鉄製の階段を登って入り口を入ると、4階まで吹き抜けの広いリビングとなっている。私たちはここを打ち合わせやプレゼンテーション用の共有スペースとして、それぞれ3階、4階部分にある個室を個人の事務所として使用していた。
リビングから3、4階へ続く階段は、リビング中央から螺旋状に伸びていたが、これが通常の螺旋階段とは違い、白いブロックが交互に積み重なったオブジェともとれる構造の物体で、手すりが無く、危険とも言える代物なのだが、見た目のエレガントさは秀逸で、階段の所々のブロックを展開すると椅子に変化するギミックもついており、高所が比較的平気な私などは、よくその椅子に座って読書を楽しんでいた。その先の3、4階の廊下部分にも手すりはなく、壁面にはブロック状の隠し椅子が仕掛けられているが、これらの椅子を出すと廊下を通行することが出来なくなるし、避けて通れば落下の危険さえあった。
この建物には、同様のギミックが随所に仕掛けられており、安全性や使い勝手よりも、見た目の優雅さや楽しさを優先させた極端なデザインが、我々の職業に合っていたし、実用にならない為か、なにより家賃が格安であったので、我々は大いに気に入っていたのだ。
しかし、3人でシェアすれば格安であった家賃も、1人で負担するとなると高額で、部屋数も多く、広すぎる物件ではあった。そこで、私は思いきって、この建物に家族で住む事にしたのである。
当初、7歳の息子の為に、危険箇所にはそれなりの改装をする予定だったのだが、忙しさにかまけているうちに息子も慣れてしまい、その危険性はすっかり忘れ去られた。
それよりも、事務所として使用していた頃にはただのオブジェであった、便器と浴槽と熱帯魚の泳ぐ池とが並んだ2階分吹き抜けのバスルームや、3階から2階のリビングに設置された滑り台が、実際に使用されるようになって、その新しい楽しさにすっかり気を取られていたとも言える。

ワイマールくんが家に初めて遊びに来たのは、引っ越してすぐ、つい1年前の事である。それまでは、狭いマンション住まいでもあったので、息子が友人を連れてくるようなことは滅多に無かったのだが、なにしろこの家には楽しい仕掛けがたくさんあったし、学校でその話をすれば、見てみたい友達も少なくはないはずだ。様々な息子の友人たちが入れ替わり立ち替わり、遊びに訪れたのだが、私は誰かが階段や廊下から転落しないか、便器ではなく池の方で用を足すのではないか、と、そんな事の方が気になって、それぞれの顔や名前を覚える暇は無かったように思う。しかし、このワイマールくんだけは、何故か、いつ、何度遊びに来たのか、思い出せば正確に言い当てられるだろうほど、印象に残っている。

どう言ったら私の考えが皆さんに正しく伝わるか分からないが、はじめからお話すると、次のようになる。

ある日、またいつものように息子の友人団が家に遊びに来たのだが、その中の1人に私は注目した。それがワイマールくんである。頭は白髪で、瞳も見慣れない色であった。生まれつき色素が無いのか、なにか、病気でそうなったのか、または、混血であるのか分からないが、私が気になったのは、そんな見た目の奇異ではなかった。彼は、気が付くと、私を見ているのだ。
気のせいなのか、この家の主人である私にいつも注意を払っている〜そういう子供の心理は理解できないこともない〜からなのか。そして、友人団が全員帰った後、私は、家の壁紙に、見慣れない切り傷を発見したのだ。私は、その切り傷を付けた犯人は、そのワイマールくんではないかと推測した。だからこそ、私に謝罪するべきかどうか、気になって私を見ていたのではないか。そう、最初は思っていた。

小さな子供の友人というのは、長くつきあううちに段々と固定され、その人数は減っていく。そして、私の息子の元に残ったのは、そのワイマールくんであった。

ワイマールくんは、毎日のように遊びに来た。息子や、私の妻とはよく会話を交わしているようだが、私が家で仕事をしているせいもあるのか、私とワイマールくんが話をする機会はほとんどなかった。その日初めて顔を合わせる時には、なにかもごもごと、口の中で挨拶をしているように見える動作をするのだが、はっきりとした言葉を聞くことはなく、壁越しの騒音で、彼が来ている事を認識するにとどまる日もあった。

ある日、子供が遊ぶ音がしたので、私は4階の仕事部屋から、なにげなく階下を伺ってみると、ワイマールくんと目が合った。彼はもごもごと口を動かした。私は大きな声で「こんにちは」と言ってみた。息子が現れてワイマールくんを追いかけたので、2人とも見えない所に行ってしまった。その日、私はまた、別の部屋で、壁に付けられた小さな新しい傷跡を発見した。

次の日も、子供が遊ぶ音が聞こえた。私は、今度はわざとこっそりと、音がしないように注意して、廊下から階下をのぞき見た。ワイマールくんは既にこっちを見ていた。目が合うと、またもごもごと口を動かした。

それから、どんなにこっそりとのぞき見しても、ワイマールくんは、毎回、こちらを見ていた。

私は、ワイマールくんが帰った後には必ず、壁についた新しい傷跡を発見するようになった。

子供がなにか遊びをすれば、壁に傷が付くのは不思議な事ではない。以前住んでいたマンションは、傷だらけであった。しかし、この傷は、どうだ。まるで、なにか鋭いもので、切り裂いたとしか思えないのだ。壁紙を剥がすように薄く切られている。子供の遊びで付く傷は、もっと大きく、派手だ。
もしかしたら、以前から付いていた傷に、最近になって気が付いているだけかもしれない。私はその日、家中の傷を確認した。

トイレに入っている時に、子供が帰ってきた。例によってワイマールくんも来ているようだ。トイレの前を2人が通り過ぎた。多分そのままリビングへ降りる滑り台へ行ったに違いなかった。私は用を足すと、池の熱帯魚にえさを落とし、ゆっくりと外へ出た。今日は、ワイマールくんと少し話をしてみるつもりだった。

トイレを出ると、私は何かを踏んだ。それはナイフだった。私はそれを拾うと、子供たちの元へ走った。案の定、キッチンの棚から、一番小さな果物用のナイフが無くなっていた。妻は出かけていた。私は大きな声で2人を怒鳴った。壁の傷の事も責めた。そういう話をするつもりではなかったのだが、凶器を手にした私は興奮していた。2人は、壁の傷について、泣きながら否定した。

妻が帰ってきたので、私は状況を説明した。2人には、これから刃物に手を触れない事と、大人が居ない時に、家で遊ばないように約束をさせた。危ない事をしなければ、壁の傷の犯人が誰かは、どうでも良い事を言って聞かせた。

ナイフを持ったワイマールくんの姿を目撃したのは、その次の日である。しかし、私が、仕事部屋のある4階からリビングへ駆け降りる間に、テーブルの上に戻してしまったようであった。妻は、果物を切り分けた後テーブルの上に置き、一寸キッチンへ皿を取りに行っただけだと説明した。私は、私の見間違いであったかもしれない、と言っておいたが、そうではない事は確かであった。帰り際、振り返ると、やはり、ワイマールくんは私を見ていた。

それからも、壁の傷は増え続けた。

私は2人が家で遊び始めると、何気なく監視するように気を付けた。現場を押さえないことには、どのような状況であるか、分からない。ありとあらゆる可能性が考えられる。私の思いこみで、ワイマールくんだけを悪者だと決めつける事は避けたい。

廊下の仕込み椅子が全て出ていて、音を立てずには部屋を出られない時もあったが、しかし、上手に音を立てずに近づいても、ワイマールくんは、いつも必ず私を見ていた。こちらがのぞき込むより早くである。どんなに注意をして近づいても、もとより大騒ぎでこちらに気が付く隙など見いだせない時でも、いざのぞき込む瞬間には、既にワイマールくんはこちらを向いていて、もごもごと、挨拶をした。

私はついに、息子の手足に、同様の切り傷があるのを発見した。壁の傷と同様に、出血しないぎりぎりのところで、皮膚のみが薄く切られていた。息子を問いつめても分からないと言うが、これは誰かの仕業に違いなかった。子供は治りが早いので、これまでも傷があったのかもしれない。

私はワイマールくんが家に入る事を禁止した。

次の日から、壁の傷が増える事は無くなった。


仕事の打ち合わせの為に外出して、帰ってみると、家には誰もいないようであった。特に声をかけることもせずに階段を登っていると、私は、なにかの気配を感じた。あの感じである。ワイマールくんが私を見ている。
私は注意して家中を見渡した。家の中は静まりかえっていた。玄関を振り返ってみたが、私の靴以外は出ていない。ワイマールくんは居ないはずである。キッチンの棚はうすく開いていたが、もし、そこからナイフが持ち出されていたとして、どうなのか。
7歳の子供が、ナイフを持って、この家に隠れていたとして、それが、どうなのか。
私は階段をゆっくり登り続けた。4階の廊下の、仕込み椅子が、ひとつだけ、半分、外に出ている。よく見てみると、箱状の椅子の収まっていた穴の中に、誰かが居るようである。椅子の、車のついた下側の隙間から、ワイマールくんの足がのぞいている。
7歳の子供が、隠れていた。しかし、それが、どうなのか。廊下には、手すりがないから、もし、私がこのまま気が付かずにあそこまでいって、飛び出してきた椅子に押されて、階下に落ちたとして、どうなのか、怪我をするかもしれない。打ち所が悪ければ、死ぬかもしれない。しかし、私は、もう、ワイマールくんが隠れているのに気が付いている。
ワイマールくんがナイフを持っていたとしても、死ぬほどの怪我を、私が負う事は無い。
ワイマールくんが椅子を押し出した時、タイミングを合わせて、その椅子を、ワイマールくんごと、思い切りよく引き出したら、どうなるだろうか。
ワイマールくんは椅子と一緒に下まで落ちるだろう。
椅子と一緒に落ちなければ、そのまま突き落とせばいい。
しかし、隠れているのがワイマールくんではなくて、息子だったらどうだ。
一瞬の判断で、手を止める事ができるだろうか。
隙間から、髪の毛が見えないだろうか、そうすれば判断できる。
白ければワイマールくんだ。

私は一生懸命目を凝らした。

-----------終-------------

という夢を見ましたー☆ 目が覚めると、汗だくでした。事務所、仕事の仲間、家族構成などの設定は総てフィクションです。キャストは次のようになっています。
私>ハギハラ シンイチ(ご本人)
友人1>吉野英昌(ご本人)
友人2>小池栄子(ファンでもなんでも無い)
妻>加護亜衣(犯罪 but 激キャワ)
息子>ハギハラ レオ(ご本人)
ワイマールくん>不明(見たこと無い子供)

2005年12月12日(月) MINI、車検で代車。
まさかのMINI.

MINI

MINI三昧。

2005年12月23日(金) ミニマム妄想
プリンターのインクを交換するとき、
左手に新しいインクを持って、
右手に古いインクを取って、

今この瞬間気絶して、気が付いたとき、どちらが新しいインクか分からなくなったらどうしよう!

脳が何らかの異変を起こして、どちらが新しいインクか分からなくなったらどうしよう!

地震が起きて、両方とも落としてしまい、どちらが新しいインクか分からなくなったらどうしよう!

と、毎回不安になります。

インクノズルのシールが破れている方が古いインクだと、分かってはいます。みなさんも、不安になったら、とりあえずインクノズルのシールを確認してください。破れていない方が新しいインクです。

Akiary v.0.42